頚椎は図1のように7個の椎骨で形成され、前方の椎間板と後方にある左右の椎間関節(以下、関節と略します)でつながります。この関節に痛みを生じたものが椎間関節症ですが、原因となる関節と発生する痛みには図2のような関係が認められます。
「昔から肩凝りに悩まされていましたが、数年前から続く肩甲骨内側の鈍痛には参っています。これまで勧められた治療はいろいろと試してみましたが、一向に良くなる兆しはありません」と言う、60歳代の女性。痛みの訴えは図2の〔4〕〔5〕でした。
この症例のレントゲンでは頚椎や胸椎に年齢相応の変化が認められ、特に第5、6、7頚椎の変形が強く、椎間板の間隔も狭くなっていました。これらの所見は図1Bの矢印方向に慢性的な力がかかった結果ですから、そこにちょっとした無理やストレスが加わると容易に椎間関節症が起こることが推察できます。
ここで、図2を分かりやすく説明します。例えば、5/6、6/7は第5頚椎と第6頚椎、第6頚椎と第7頚椎の間の関節のことで、〔4〕の痛みは5/6、〔5〕の痛みは6/7の椎間関節症で起こりやすいことを示します。この症例では、第5、6、7頚椎が変形しているため、少なくとも5/6と6/7が傷んで図の〔4〕〔5〕に痛みを生じやすいことが推測できます。驚くことにこれは実際の訴えと一致します。つまり、この症例は単なる肩凝りではなく椎間関節症である疑いが濃厚となりました。
椎間関節症の治療は、レントゲンで見ながら傷んだ関節に局所麻酔薬と消炎鎮痛薬の混合液を注射します。これが椎間関節ブロックですが、注射の際にいつもの痛みが再現できることが特徴です。この症例もはっきりした再現痛が得られ、ブロックの直後より痛みが緩和して、翌日には数年来の痛みから解放されました。やはり、この症例は頚椎の椎間関節症が原因でした。
ところで、私も先ほどから肩が痛くなってきました。しかし、私の場合は頚椎の椎間関節症である可能性は極めて低く、この原稿の締め切りを目前にしてキーボードを操作する手に力が入って、本当の肩凝りを生じたものと推測されます。
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