「腰椎すべり症」伴う、下肢症状の治療法について

 

 今回から、「腰椎(ようつい)すべり症」に伴う、下肢症状の治療法を説明します。

 

 下肢症状は、神経根症状と馬尾症状に分けられますが、保存的治療の適応は神経根症状です(平成20年9月27日号)。

 
 神経根症状は、椎間孔(ついかんこう)や脊柱管(せきちゅうかん)で神経根が圧迫されて起こります。例えば、第4、第5腰神経、第1仙骨神経根が圧迫されると図1の@ABに症状を生じます。しかし、動物実験で単純に神経根を圧迫しても同様な症状が再現できないため、さまざまな痛みを発生させる物質(発痛物質)が造られて神経が過敏状態になることが原因と考えられています。

 
 さて保存的治療の第一歩は薬物療法です。一般的に非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs=エヌセイドと呼ばれます)の内服が使用されますが、脊柱管狭窄(きょうさく)では血管拡張薬も併用されます。まず、NSAIDsはある種の発痛物質に働いて、その作用を弱めて鎮痛効果を発揮します。従って、その発痛物質が大きく関与する外傷や炎症の痛みに対しては期待する効果が得られますが、他のさまざまなタイプの発痛物質が複雑に絡み合う神経根症状に対しては、NSAIDs単独で効果が得られるとは限りません(図2)。

 
 ところで、脊髄(せきずい)や馬尾神経はエネルギー源となる酸素や栄養の60%を周りの脊髄液から、残りの40%が神経に分布する血管から供給されます。また、脊髄液は脳で作られて脊柱管を一巡して再び脳で吸収されます(図3A)。従って、脊柱管狭窄では、狭窄部位より末梢(まっしょう)の脊髄液はうっ滞しやすく(図3B)、脊髄液からのエネルギー供給が減少します。その結果、狭窄部位より末梢の神経の機能が低下して、さまざまな発痛物質が造られます。その典型が、少し歩くと脚の痛みやシビレが強くなり、しゃがんで休むと楽になるという間欠性跛行(はこう)という現象です。歩行という動作でエネルギー消費が急増して、狭窄部位より末梢の神経に一過性の機能障害を起こしたものです。

 
 このように脊柱管狭窄では脊髄液からのエネルギー供給が減少して症状が悪化するため、減少したエネルギーを増加した血管から補うために血管拡張薬が使用されます。

 
 次回は、神経ブロック療法を説明しますが、薬物療法との違いに驚くことでしょう。